『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 2しゅったつのときはちかづく④

P29L16 「タイキ様は息災(そくさい)でいらっしゃいますか」

先生の言葉です。

そくさい【息災】(「息」はやめる意)①(仏教で)災難を防ぐこと。②無事なこと。『新明解国語辞典

「おげんきですか?」ということですね。「息」に関してもう少し詳しく説明すると

息【ソク・ショク いき】

 ①(名)いき。呼吸。② (動)息をする。③(動)いきづいて生存する。生きて子孫を生む。ふえる。「生息(せいそく)」④(動)休む。いこう。静かにいきづく意から転じて、休が息する意。「安息(あんそく)」⑤(動)やむ。やめる。休止する。とだえる。⑥むすこ。「子息(しそく)」⑦(名)貸した元金(がんきん)から生み出される金銭。利子。「利息(りそく)」

〔解字〕会意。「自(はな)+心」で、心臓の動きにつれて、鼻からすうすうといきをする言葉を示す。狭い鼻孔をこすって、いきが出入りすること。すやすやと平静にいきづくことから、安息・生息などの意となる。また、生息する意から子孫をうむ→むすこの意ともなる。

                    『漢字源』(学習研究社

さて、この物語の登場人物は、本名で呼ばれる場合と「通り名」で呼ばれる場合があります。表記はすべてカタカナですが、漢字に変換するとそこに意味が読み取れます。「タイキ」様は、

P30L2 その名が下界では知らぬ者のない先代の「高い塔の魔法使い」の通り名であると

であ り、その功績はこの後ところどころで語られます。そういうところを考えると「大器」でしょうか。

 

 P30L7「ではすでに禅譲(ぜんじょう)なさった」

禅譲」です。

ぜんじょう【禅譲】天子がその地位を子供に世襲させず、徳のある者に譲

         ること。      『新明解国語辞典

んー、いまいちピンときませんね。

ぜんじょう【禅譲】①中国で、帝王がその位を子孫に伝えないで、有徳者

         に譲ること。

         ②天皇、または支配者がその地位を後継者に譲るこ

         と。譲位。       『日本国語大辞典

 「禅(ぜん)」という字を見ると、私たちはお寺の「座禅」などを思い浮かべてしまいますが、「禅」という漢字の意味は

禅(ゼン セン)①(名)天子が天をまつる儀式。五方(東西南北+中

        央)の土を集めて壇をつくり、その上で行う。封禅(ほ

        うぜん)。②(名)ゆずり。壇上で天をまつる天子の特

        権。それを受けるのを「禅ヲ受ㇰ」といい、略して禅と

        いう。③(動)ゆずる。天子が天子の特権を譲る。

                         『漢字源』

です。武力によらず、平和的に支配権を譲る、ということです。ちなみに仏教用語の方の「禅」は梵語サンスクリット語)の音訳 だそうです。

禅譲なさった」は「マツリカに図書館の主(あるじ)の座を譲った、ということですね。

 

『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 2しゅったつのときはちかづく③

P28L13 「王宮、図書館付きのロワンと申します」

ロワンの名乗りです。しかし、この直後P28L16では「王宮付きの役人」と書かれ、巻頭にある「主要登場人物」には「図書館付きの役人」となっています。

この国の組織がどうなっているのまでは知りようがありません。ただ、ある程度の高い階級の人物だと想像できるのは、いくつかの材料があるからです。

P29L8 「あなたが直々(じきじき)に来られるとは」

と「先生」がいいます。王宮から迎えが来ることにはなっていたがまさか、ロワン自身がこの山中まで来るとは思っていなかった、ということですよね。「一の谷からこの里まで健脚(けんきゃく)=(その年齢の普通の人より)足の力が強く、よく歩けること=をほこるものでも丸四日」歩いて来なければならないので、他の部下のような立場の人が来るものと「先生」は思っていたのです。

そこにはある「情報管制」とでもいうべき事情があったのですが、それは後の話。

ロワンについては後の巻で、もう少し触れられています。

第二巻P336L8(マツリカの言葉)ロワンは以前には図書館付きだった

        が、今は王宮の高官の間でも文官あがりでは一番上の地

        位にある一人だからね。

      L14ロワンは杣道(そまみち)=山道=を一人で旅すること

        が許されるような立場じゃないよ。

第三巻P208L4「ロワン?参事官殿のことかい?」

「文官(ぶんかん)」とは

ぶんかん【文官】行政や司法など、軍事以外の仕事をする公務員(役職)

        ⇔武官(ぶかん)       『新明解国語辞典

 「参事官(さんじかん)」は、その組織によって違うようです。

国家機関や外交使節団、国際機関等において、所属する組織の事務に参与する役職のこと。その職務や職責の内容は、参事官の職が設置される組織ごとの事情によってさまざまである。(Wikipedia

 ちなみに「主要登場人物」一覧では、特任大使となるサルキシャンが「参事官」と明記されています。

「王宮の高官の間でも」「一番上の地位にある」人にしては、物腰が丁寧ですね。

P30L13 キリヒトは、無駄を言わない先生の流儀に、今日はじめてみるこのロワンという役人がまったく当然のように従っているところを見て、二人が旧知の間柄(=昔からの知り合い)であることを確信した。

のわりに、先生とロワンの会話は二人とも大変丁寧な言葉づかいをしています。また、ロワンは少年であるキリヒトに対しても、先生に対するのとほぼ同様の態度で接しています。これはロワン自身の人柄なんでしょうか?それとも「キリヒト」に対する敬意なのでしょうか?それはよくわかりません。 

『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 2しゅったつのときはちかづく②

 P27L16~

少年の後ろに結(ゆ)った黒髪にはやや癖があって後(おく)れ毛がうなじに巻いている。よく日に焼けた黄褐色(おうかっしょく)の肌に艶(つや)があり、丸い額(ひたい)が張り出して賢(かしこ)そうだった。眉間(みけん)の広くひらけた額(ひたい)に眉(まゆ)は薄く、八の字にたれて温和(おんわ)そうな印象を与えた。だが、その下の両の眼(まなこ)は涼やかに、しかし逸(そ)らすことなく真っすぐに今も男に据(す)えられていた。わずかに鳶色(とびいろ)の差した黒い瞳は、従順さといくばくかの頑固さをふたつながらありありと映(うつ)しだしていた。揺(ゆ)るがぬ瞳(ひとみ)だった。

            

キリヒトの容貌の記述です。ポイントは「黒髪」「黄褐色の肌」「黒い瞳」ですね。

その少し前にあるロワンの容貌が、

P27L2 目元や鼻筋に鋭角の線のある白い肌に髭(ひげ)の濃い顔立ちは、峠向こうの一の谷に典型的なものだった。

とあるのとは違いますね。前に黒石との会話でも「この里のもんじゃない」と言われたキリヒト達が、この地方の人々とは外見が違うのです。キリヒトの容貌がはっきり書かれている箇所はほかに見当たらないので、ここでしっかりイメージしておきます。

 

P28L6~ 

小柄(こがら)だがすっくと立って、初めて見る都の正装の男に対してもじもじした素振(そぶ)り一つみせない。素直そうだが、同時に年に似合わず肝(きも)の据わった風がある。邪気(じゃき)はなく険(けん)もないが、怯(おび)えも畏(おそ)れもまた知らぬ眼差(まなざ)しは梟(ふくろう)の目を思わせた。気負(きお)いなく、しかし揺(ゆる)るぎなく踏みしめた足は、荒れ地に生(は)えながらすでに風雪に耐える弾力を持っている椎(しい)の蘖(ひこばえ)にも似ていた。

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背は高くないようです。「邪気はなく、険もない」 

じゃき【邪気】①病気などを起こす悪い気。悪気。

                         ②物の怪(もののけ

       ③かぜ、風邪、感冒

       ④ねじけた気風。悪気。      『日本国語大辞典

「邪気」が感じられないので「無邪気」だ、という言い方になるのですが、現代の語感だと「無邪気」は「何にも考えてない」「かわいい」「子供っぽい」という感じになりますね。ここでは「むやみに人を疑ったり、事を構えたりする傾向。悪意」(『新明解国語辞典』)が感じられないという意味でしょう。

けん【険】①けわしいこと。

     ②敵意や憎悪を感じさせる顔つきで、見ただけで他人に危険・

      不安を感じさせるところがあること。 『新明解国語辞典

 

そして「椎(しい)」は、いわゆる「どんぐり」のなる木のことです。ブナ科の常緑樹です。日本ですと福島県新潟県付近が北限の、暖帯の樹木です。建築用の木材などにも用いられますが、「薪(まき)」としても適しているそうです。そういうことから炭焼きをしているキリヒト達にとって縁の深い樹木のだったのでしょうか?なぜ、特にシイだったのか、気になるところです。

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余談ですが、シイタケは「椎茸」。実際に原木栽培の「ほだ木(ぎ)」に用いられるのはクヌギやナラ、クリなどの「広葉樹」だそうですが、シイももちろんその中に含まれるので「椎茸」の名称につながったのでしょうか?この点に関しては、まだ確証がとれません。ちなみにしいたけは英語でも shiitake なんですって。

ひこばえ【蘖】「孫(ひこ)生(はえ)」の意。切り株から出た芽。

                      『新明解国語辞典

「孫(まご)」ことを「ヒコ」というのは、古い言い方です。

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このように、木を切った後に残った切り株から生えてくる新しい芽を「ひこばえ」と言います。

荒れ地に生(は)えながらすでに風雪に耐える弾力を持っている椎(しい)の蘖(ひこばえ)にも似ていた。(前出)

切り株とひこばえ、先生とキリヒト。そんな風にイメージを重ねることもできます。

ちなみに「先生」の容貌ははっきりしません。「老人」で「節くれだった指」をしていることぐらいしかここには書かれていません。ずうっと後になってもう少し付け足されます。

『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 2しゅったつのときはちかづく①-2

P26L10 ほどなく膝まである黒いローブを胸元(むなもと)にかき合わせた背の高い四十(しじゅう)がらみの男が、脚絆(きゃはん)をつけた革(かわ)の長靴(ちょうか)で・・・

 「脚絆(きゃはん)」です。

              

旅行や作業などのとき、脛(すね)にまとい、ひもで結んで動きやすくする布。はばき。『日本国語大辞典

と、「脚絆」と聞くとこのイメージなのですが、「ローブ」に「長靴」という姿とは合いません。    

活動時に脛を保護し、障害物にからまったりしないようズボンの裾を押さえ、また長時間の歩行時には下肢を締めつけてうっ血を防ぎ脚の疲労を軽減する等の目的がある。日本では江戸時代から広く使用され、現在でも裾を引っ掛けることに起因する事故を防いだり、足首や足の甲への受傷を防ぐ目的で着用を義務付けている職場があり、作業服などを扱う店で販売されている。 Wikipedia「脚絆」                             

                          f:id:tsuki89ma7ki0:20200323134503j:plaincornischong at lb wikipedia

 Wikipediaの「脚絆」のページの写真です。アメリカの軍の 「レギンス型」脚絆という説明がついています。  こっちの方がイメージとしては近いですね。

はじめは「脚絆は英語でなんて言うんだろう」と思って調べると「Leg bond」と出るのです。で、その画像を検索してみるとなんだか全然違うものが出てきて・・・。最初からWikiを頼ればよかったです。「レギンス」あるいは「ゲートル」という方が近いと思われます。 足首を覆うものを「スパッツ」と呼ぶ・・・のかな?しかし、現在、日本ではある衣料品の名前として「レギンス」「スパッツ」が使われていて、それは本来の「脚絆」とは違うものを指しているので、ここは「脚絆」でいいのです。

『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 2しゅったつのときはちかづく①-1

P26L10 ほどなく膝まである黒いローブを胸元(むなもと)にかき合わせた背の高い四十(しじゅう)がらみの男が、脚絆(きゃはん)をつけた革(かわ)の長靴(ちょうか)で・・・

 

 この山里から峠をこえた所に「一の谷(いちのたに)」という都市があることは、鍛冶屋のところで触れられています。その一の谷の王宮から、この日迎えが来ることを、キリヒトは先生から聞かされていたようです。

「ローブ」です。

 服飾関係の用語は、時代や国・地域によって同じものが違う名前だったり、違う名前だけれども同じものを指したり、素人にはとても追いつけません。自分の国の服装についてだって同じです。服飾関係の資料を見れば見るほどわからなくなってきてしまったので、とりあえず『日本国語大辞典』の記述を見てみます。

ローブ(英:robe)①ワンピース仕立ての 長くゆるやかな婦人服。

         ②裁判官や欧米の僧侶が着る長い上着

これと区別がつかないのが「ガウン」です。

ガウン(英:gown)くゆったりと仕立てた上着。裁判官の法服。大学教授などの正装。婦人の上着や部屋着など。寛衣。

 英和辞書にもあたってみましたが、同じような記述でした。袖があり、裾が長い上着ということなのでしょうが、ちょと気になるのが次の部分「胸元にかき合わせた」です。

 かきあわせる(他動詞)

①別々のものをまぜて一つにする。まぜあわす。

②手で、離れているものを寄せて合わせる。

③琴や琵琶などを合奏する。

④琴や琵琶などで、弦の調子を整えたあとで、試みに簡単な一定の旋律を奏する。

この部分の「かきあわせる」は②の意味と思われますあとは想像するしかないのですが・・・詰襟のようにボタンできっちり止まっているものを「かきあわせて」とは言わないように思うのですが、いかがでしょう?寒いから?うーん・・・少し前のところでキリヒトは体を動かして少し「汗がにじ」んでいましたから、襟元を押さえるような寒さとも思えません。

  ちなみに②の用例は「・・母は襟を掻合わせて坐り直り」というもので、出典は『魔風恋風(まかぜこいかぜ)』(小杉天外=こすぎてんがい)です。1903(明治36)年読売新聞に連載されて大人気となった「女学生」の青春小説だそうです。それはさておき、用例の「搔合わせて」の「母」は、「小紋縮緬(こもんちりめん)の羽織(はおり)、茶萬筋の結城紬ゆうきつむぎ)の綿入れ」という服装です。和服です。

 わざわざ「胸元にかき合わせた」という言葉を使っていることが、気になってしまいました。この後のP28L6に「初めてみる都の正装の男に対して」とありますから、この「ローブ」姿は一の谷の王宮に仕えるものの「正装」であるようです。

 さて次は「四十がらみ」です。

①名詞に付けて、「そのものをくるめて」「そのものといっしょに」の意を表す。ぐるみ。

②年齢、値段を示す数詞に付けて、「だいたいその見当」「その前後」の意を表す。値段の場合は多く相場(そうば)で用いる。

日本国語大辞典』(小学館

ということは「だいたい四十歳ぐらいの」ですね。なんか、思ってたのより若いな。

さて残るは難問「脚絆(きゃはん)」です。

『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 1やまざとでのさいごのいちにち⑬

「キリヒト」について①

P20L13 「この里のもんじゃないもの。先生も、お前も」(黒石)

P21L3  「先生だって、ありゃただの炭焼きじゃない」(黒石)

P22L3  「キリヒトはすぐには戻ってこない。戻ってきた例(ためし)はない」

      (親方)

この二人の言葉からわかるのは、

・「先生」も「キリヒト」もこの村の生まれではないこと。

・村の人々も「先生」と呼んでいること。

・先生も炭焼きの仕事に従事していること。

親方の言葉に含みがあります。「キリヒトは戻ってこない」=この場合の「キリヒト」は、黒石と言葉を交わしたキリヒト本人を指してはいません。「キリヒト」が個人名でない可能性がうかがわれます。そして、そのことを村の人々は知っているのです。

・「キリヒト」が指すのは、複数の人物である可能性があること。

「すぐには」戻ってこない、つまりは長期間不在ではあるけれども「戻ってくる」ことを示します。「例(ためし)がない」ということは、何回もそのことがあって場合に使います。

・「キリヒト」は一度村を出ると長期間不在である。しかし、いずれ戻ってはくる。

ということでしょうか。文庫版第二巻ではもう少し詳しいことがわかります。

 

P23L15 やがて立ち上がると午前の日課の締めくくりである体操を始めた。

「体操」が気になってしまうんです。

P24L1  なんの変哲のもない素朴と言ってもよいような動作だが、これらを止まった虫が逃げ出しもしないようなゆっくりとした動きで、じっとしているとしか見えないような緩慢な所作(しょさ)で続けていく。

ゆっくりとした動きというと、すぐ太極拳が思い浮かびますが、ちょっと違う気がします。単に作者の創作なのか、元ネタがあるのか、ここは全くわかりません。どんな分野にもお詳しい方がいらっしゃるので、どなたかそういう方に教えていただきたいです。

そもそもこのブログを始めたのはそういう気持ちにあります。『図書館の魔女』を読んでいると、知らないことがたくさん出てきて、だれか脚注のように教えてほしいと思い、人に聞く前に自分でわかる範囲は調べてみよう、そのうえでどなたか教えてください!と思ったのがきっかけです。

ただ、初めてみるとあれもこれも知らないことばかり。そのうえ、調べていくとだんだん面白くなってきて全然前に進まない、という状況で今に至ります。

でもそれにはもう少し世間に広める手段を講じる必要がありますが、せめて第一巻を終えるくらいに形を整えてから、と考えています。前途は果てしないですが・・・。

『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 1やまざとでのさいごのいちにち⑫

P17L14 まだ若いのに世に知られるこの鍛冶場(かじば)の二番鎚(にばんづち)をつとめる「黒石(くろいし)」は、

まず「黒石」です。

全編中でこの冒頭の部分でしか登場しません。そういう扱いをされているのは「黒石」と、装丁職人として名前だけが出てきた「セト」ぐらいです。印象的な人物なので、今後続編で登場を期待したいです。

「世に知られるこの鍛冶場」ということは、少なくとも一の谷においては、評判の高い鍛冶職人がいるということでしょうか。

次に「二番鎚」です。これは、辞書にない語です。

P21L10 一番鎚の大男がもう金敷(かなしき)の前で手につばを吹きかけている。もうひとり、この鍛冶屋の親方(むらげ)が炉の前にしゃがんで黒石を待っていた。 

刀鍛冶のイラスト(相槌)

「刀鍛冶」のイラストをお借りしました。黒石もこの横にたって、鎚を振るうわけですね。

「むらげ」は聞きなれない言葉ですが、辞書に載っています。

むらげ(村下) 中国地方の古風な製鉄工程で、砂鉄を炉に入れる役目の者をいう。(『日本国語大辞典』)

 

「二番鎚」を探している時に、兵庫県三木市にある「山本鉋(かんな)製作所」さんのページに行き当たりました。三木市の「播州打刃物(ばんしゅううちはもの)」は、1996年に経済産業省(当時は通商産業省)から「伝統的工芸品」の認定を受けています。中国地方は古代から製鉄のさかんな土地で、『播磨国風土記』には、鍛冶の神様である「天目一箇命(あめのまひとつのみこと)」の記載があるそうです。

 

山本鉋製作所さんのページには、三木の鉋鍛冶の歴史などが詳しく書かれているのですが、その中に鉋鍛冶の言葉についてまとめられたものがありました。

鍛冶屋が軒を連ね、鍛冶職人の多い町三木では独特の言葉が使われてきました。また、鍛冶職人だけに通用する鍛冶言葉もあります。それを集めて紹介したいと思います。主に鉋鍛冶の言葉です。

その中の「鍛造・鍛接に関する言葉」の項目に、次のような言葉がありました。

横座(よこざ)

鞴(ふいご)の横に据えた火窪(ほくぼ)の前に座り、弟子の大鎚(おおつち)を受けて鉋の鍛接や火造作業をする人の事。鍛冶屋の親方の事を横座ともいう。鍛接や焼き入れなど切れ味に直接影響する火を扱う仕事を「横座仕事」と言う。

先手(さきて)

鉋の鍛接や火造作業をする時、横座の指示を受けて作業する人。先手の使う大鎚を「向こう鎚」と言い。この作業は弟子の仕事だった。横座から見ての先手が主(おも)で、右の先手を二番(にばん)と呼びます。関東の鍛冶屋では先手の事を「向こう打(ぶ)ち」と呼んだようです。

時代や地方によって言葉は違うでしょうが、「二番」の参考にはなります。

鍛冶場の言葉から出て、現在も使われている言葉もあります。

相槌(あいづち)①鍛冶などで師の打つ間に弟子が槌を入れること。また、互いに槌を打ち合わすこと。②問いかけに答えること。相手の話に巧妙に調子を合わせること

相槌を打つ・・他人の話に調子を合わせる。。(『日本国語大辞典』)

ちなみに「鎚」と「槌」。木製の柄の先に取り付けるのが金属か木製かの区別ですから、鍛冶場で鉄を打つのは「鎚」になるわけです。「槌」の文字は、物語終盤で重要な役割を果たします。

 

P20L8 こんど崖下の刀鍛冶に弟子入りするつもりだ。崖下に風吹きから入りなおすんだよ。それでいずれは一番鎚を打つよ。

黒石の言葉ですが、風吹き<二番鎚<一番鎚 で、その上で今の鍛冶場より「刀鍛冶」の方が上、といった感じですね。包丁や鋤、鍬を作るのは「刀鍛冶」に対して「野鍛冶」といったりするようです。