『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 2しゅたったつのときはちかづく⑦

 P31L14 キリヒトの背にひと包みの背嚢(はいのう)、先生には襷(たすき)にかけた風呂敷(ふろしき)

ここは「襷(たすき)」です。

「たすき」と聞いて思い浮かべるのは、箱根駅伝の「たすき」でしょうか。あるいは、選挙の時、候補者が自分の名前を太々と書いて方からかけている、アレでしょうか。いずれも「一方の肩から他の腰へ斜めにかけた細い布」(『日本国語大辞典』にあたるでしょう。

 

本文でも「襷(たすき)にかけて」というのは、背中に荷物をしょって、その両端を片方の肩と、その反対の脇へ回して胸の前で結ぶことです。時代劇では武士が旅行をする際に、こういう荷物の背負い方をしていましたね。そんなに重い感じではありません。

さて、せっかくですから「たすき」について少し調べました。

たすき【襷】①上代(じょうだい)、神事奉仕の物忌(ものい)みの標(しるし)として肩にかける清浄な植物繊維の紐(ひも)。②幼児の着物の袖を肩にかけて結びあげる紐。③仕事をする時、和服の袖をたくしあげるために両肩から両脇へ斜め十文字形に

になるようにかけて結ぶ紐。④紐・線などを斜めにうち違えること。またその模様。⑤杉戸・板塀などの上部に細い木を斜め十文字にうち違え、飾りとしたもの。⑥漢字の構成で、「戈」第三画にみられるような「ノ」。⑦一方の肩から他の腰へ斜めにかけた細い布。 (『日本国語大辞典』)

下は「茶摘(ちゃつ)み」の 写真です。歌にあるような「あかねだすきに すげのかさ」を再現しています。肩から背中に掛けている紐が「たすき」です。

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因数分解で、なんで「たすきがけ」なのか?。背中が✖になっているところからなんだ、ということもわかります。

でも、一番最初の「上代(じょうだい)、神事奉仕の物忌(ものい)みの標(しるし)として」っていうのはびっくりです。

現代において襷は日常的な実用品となっているが、古代は神事の装飾品であった。群馬県で出土した巫女の人物埴輪では、「意須比」と呼ばれる前合せの衣服を締め、襷をかけている姿となっている。加えて、日本神話では天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩屋に隠れた際、

アメノウズメの命、天の香山(かぐやま)の天の日影を手次(たすき)にかけて 』  —古事記」 神代

踊ったと記されており、これらの巫女が着用した例は襷を掛ける者の穢れを除く、物忌みの意味があったとされている。(『 Wikipedia 「たすき」』)

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Kakidai - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

襷を掛けている巫女の人物埴輪。表面から見ると脇横の紐しか見えないが、背面から見ると斜め十字に掛けてあり、襷であることが分かる。(埴輪「腰掛ける巫女」重要文化財 東京国立博物館蔵)(『 Wikipedia 「たすき」』)

画像はWikipediaにあるものです。東博の資料画像にはこの埴輪の背面から写した写真があり、確かに紐が背中で✖になっています。 

古代では「穢れ」を取り除く意味があった「たすき」は、時代を経るにつれ、人々の服装の変化にも影響されます。「筒袖(つつそで)」だったものが、だんだん「袂(たもと)」のある形になった「着物」を着た一般の庶民が、身動きのためにその袖を紐でからげる「たすき」は、「労働」の印となります。かつては「神聖」な印だったものが、たとえば立場の上の人の前では「たすき」をはずすのが礼儀とされるようになる、そんな変化が歴史の中にあるんですね。

ちょっと横道にそれましたが、面白かったです。