『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 2しゅったつのときはちかづく②
P27L16~
少年の後ろに結(ゆ)った黒髪にはやや癖があって後(おく)れ毛がうなじに巻いている。よく日に焼けた黄褐色(おうかっしょく)の肌に艶(つや)があり、丸い額(ひたい)が張り出して賢(かしこ)そうだった。眉間(みけん)の広くひらけた額(ひたい)に眉(まゆ)は薄く、八の字にたれて温和(おんわ)そうな印象を与えた。だが、その下の両の眼(まなこ)は涼やかに、しかし逸(そ)らすことなく真っすぐに今も男に据(す)えられていた。わずかに鳶色(とびいろ)の差した黒い瞳は、従順さといくばくかの頑固さをふたつながらありありと映(うつ)しだしていた。揺(ゆ)るがぬ瞳(ひとみ)だった。
キリヒトの容貌の記述です。ポイントは「黒髪」「黄褐色の肌」「黒い瞳」ですね。
その少し前にあるロワンの容貌が、
P27L2 目元や鼻筋に鋭角の線のある白い肌に髭(ひげ)の濃い顔立ちは、峠向こうの一の谷に典型的なものだった。
とあるのとは違いますね。前に黒石との会話でも「この里のもんじゃない」と言われたキリヒト達が、この地方の人々とは外見が違うのです。キリヒトの容貌がはっきり書かれている箇所はほかに見当たらないので、ここでしっかりイメージしておきます。
P28L6~
小柄(こがら)だがすっくと立って、初めて見る都の正装の男に対してもじもじした素振(そぶ)り一つみせない。素直そうだが、同時に年に似合わず肝(きも)の据わった風がある。邪気(じゃき)はなく険(けん)もないが、怯(おび)えも畏(おそ)れもまた知らぬ眼差(まなざ)しは梟(ふくろう)の目を思わせた。気負(きお)いなく、しかし揺(ゆる)るぎなく踏みしめた足は、荒れ地に生(は)えながらすでに風雪に耐える弾力を持っている椎(しい)の蘖(ひこばえ)にも似ていた。
背は高くないようです。「邪気はなく、険もない」
じゃき【邪気】①病気などを起こす悪い気。悪気。
②物の怪(もののけ)
③かぜ、風邪、感冒
④ねじけた気風。悪気。 『日本国語大辞典』
「邪気」が感じられないので「無邪気」だ、という言い方になるのですが、現代の語感だと「無邪気」は「何にも考えてない」「かわいい」「子供っぽい」という感じになりますね。ここでは「むやみに人を疑ったり、事を構えたりする傾向。悪意」(『新明解国語辞典』)が感じられないという意味でしょう。
けん【険】①けわしいこと。
②敵意や憎悪を感じさせる顔つきで、見ただけで他人に危険・
不安を感じさせるところがあること。 『新明解国語辞典』
そして「椎(しい)」は、いわゆる「どんぐり」のなる木のことです。ブナ科の常緑樹です。日本ですと福島県や新潟県付近が北限の、暖帯の樹木です。建築用の木材などにも用いられますが、「薪(まき)」としても適しているそうです。そういうことから炭焼きをしているキリヒト達にとって縁の深い樹木のだったのでしょうか?なぜ、特にシイだったのか、気になるところです。
余談ですが、シイタケは「椎茸」。実際に原木栽培の「ほだ木(ぎ)」に用いられるのはクヌギやナラ、クリなどの「広葉樹」だそうですが、シイももちろんその中に含まれるので「椎茸」の名称につながったのでしょうか?この点に関しては、まだ確証がとれません。ちなみにしいたけは英語でも shiitake なんですって。
ひこばえ【蘖】「孫(ひこ)生(はえ)」の意。切り株から出た芽。
『新明解国語辞典』
「孫(まご)」ことを「ヒコ」というのは、古い言い方です。
このように、木を切った後に残った切り株から生えてくる新しい芽を「ひこばえ」と言います。
荒れ地に生(は)えながらすでに風雪に耐える弾力を持っている椎(しい)の蘖(ひこばえ)にも似ていた。(前出)
切り株とひこばえ、先生とキリヒト。そんな風にイメージを重ねることもできます。
ちなみに「先生」の容貌ははっきりしません。「老人」で「節くれだった指」をしていることぐらいしかここには書かれていません。ずうっと後になってもう少し付け足されます。