『図書館の魔女』の勉強会 第一巻 1やまざとでのさいごのいちにち⑫
P17L14 まだ若いのに世に知られるこの鍛冶場(かじば)の二番鎚(にばんづち)をつとめる「黒石(くろいし)」は、
まず「黒石」です。
全編中でこの冒頭の部分でしか登場しません。そういう扱いをされているのは「黒石」と、装丁職人として名前だけが出てきた「セト」ぐらいです。印象的な人物なので、今後続編で登場を期待したいです。
「世に知られるこの鍛冶場」ということは、少なくとも一の谷においては、評判の高い鍛冶職人がいるということでしょうか。
次に「二番鎚」です。これは、辞書にない語です。
P21L10 一番鎚の大男がもう金敷(かなしき)の前で手につばを吹きかけている。もうひとり、この鍛冶屋の親方(むらげ)が炉の前にしゃがんで黒石を待っていた。
「刀鍛冶」のイラストをお借りしました。黒石もこの横にたって、鎚を振るうわけですね。
「むらげ」は聞きなれない言葉ですが、辞書に載っています。
むらげ(村下) 中国地方の古風な製鉄工程で、砂鉄を炉に入れる役目の者をいう。(『日本国語大辞典』)
「二番鎚」を探している時に、兵庫県三木市にある「山本鉋(かんな)製作所」さんのページに行き当たりました。三木市の「播州打刃物(ばんしゅううちはもの)」は、1996年に経済産業省(当時は通商産業省)から「伝統的工芸品」の認定を受けています。中国地方は古代から製鉄のさかんな土地で、『播磨国風土記』には、鍛冶の神様である「天目一箇命(あめのまひとつのみこと)」の記載があるそうです。
山本鉋製作所さんのページには、三木の鉋鍛冶の歴史などが詳しく書かれているのですが、その中に鉋鍛冶の言葉についてまとめられたものがありました。
鍛冶屋が軒を連ね、鍛冶職人の多い町三木では独特の言葉が使われてきました。また、鍛冶職人だけに通用する鍛冶言葉もあります。それを集めて紹介したいと思います。主に鉋鍛冶の言葉です。
その中の「鍛造・鍛接に関する言葉」の項目に、次のような言葉がありました。
横座(よこざ)
鞴(ふいご)の横に据えた火窪(ほくぼ)の前に座り、弟子の大鎚(おおつち)を受けて鉋の鍛接や火造作業をする人の事。鍛冶屋の親方の事を横座ともいう。鍛接や焼き入れなど切れ味に直接影響する火を扱う仕事を「横座仕事」と言う。
先手(さきて)
鉋の鍛接や火造作業をする時、横座の指示を受けて作業する人。先手の使う大鎚を「向こう鎚」と言い。この作業は弟子の仕事だった。横座から見ての先手が主(おも)で、右の先手を二番(にばん)と呼びます。関東の鍛冶屋では先手の事を「向こう打(ぶ)ち」と呼んだようです。
時代や地方によって言葉は違うでしょうが、「二番」の参考にはなります。
鍛冶場の言葉から出て、現在も使われている言葉もあります。
相槌(あいづち)①鍛冶などで師の打つ間に弟子が槌を入れること。また、互いに槌を打ち合わすこと。②問いかけに答えること。相手の話に巧妙に調子を合わせること
相槌を打つ・・他人の話に調子を合わせる。。(『日本国語大辞典』)
ちなみに「鎚」と「槌」。木製の柄の先に取り付けるのが金属か木製かの区別ですから、鍛冶場で鉄を打つのは「鎚」になるわけです。「槌」の文字は、物語終盤で重要な役割を果たします。
P20L8 こんど崖下の刀鍛冶に弟子入りするつもりだ。崖下に風吹きから入りなおすんだよ。それでいずれは一番鎚を打つよ。
黒石の言葉ですが、風吹き<二番鎚<一番鎚 で、その上で今の鍛冶場より「刀鍛冶」の方が上、といった感じですね。包丁や鋤、鍬を作るのは「刀鍛冶」に対して「野鍛冶」といったりするようです。